第19章 分散分析¶
この章で学ぶこと
- 3つ以上のグループの平均を比べる 一元配置分散分析(ANOVA)
- 平方和の分解:全体の変動 = 群間変動 + 群内変動
- \(F\) 検定 の仕組みと分散分析表の読み方
- 多重比較(どのグループ間に差があるか)
- 二元配置分散分析と 交互作用 の考え方
3種類の肥料で収穫量に違いがあるか、4つの指導法で成績に違いがあるか——3つ以上のグループの平均を比べたいことはよくあります。 このとき使うのが 分散分析(analysis of variance, ANOVA)です。名前に「分散」とありますが、目的は 平均の比較 です。統計学者フィッシャーが1920年代に農事試験のために考案しました。
19.1 なぜ \(t\) 検定をくり返してはいけないのか¶
3つのグループ A, B, C を比べるのに、A と B、A と C、B と C の3回 \(t\) 検定をすればよいと思うかもしれません。 しかし第16章で学んだように、検定をくり返すと「少なくとも1回は誤って有意になる確率」が増えてしまいます。有意水準5%の検定を3回行うと、その確率は(3つの検定を独立とみなすと)約 \(1 - 0.95^3 = 14.3\%\) にもなります。
分散分析は「すべてのグループの平均が等しい」という1つの帰無仮説を、1回の検定で調べます。
19.2 一元配置分散分析のモデル¶
3種類の肥料 A, B, C をそれぞれ5区画の畑に使い、収穫量(kg)を測りました。
| 肥料 | 収穫量 | 平均 |
|---|---|---|
| A | 20, 22, 19, 24, 20 | 21.0 |
| B | 25, 27, 24, 28, 26 | 26.0 |
| C | 22, 24, 21, 23, 25 | 23.0 |
全体の平均は \(\bar{y} = 350/15 = 23.33\) です。
定義 19.1(一元配置分散分析のモデル)
\(k\) 個のグループがあり、グループ \(i\) の \(j\) 番目のデータを \(Y_{ij}\)(\(i = 1, \dots, k\)、\(j = 1, \dots, n_i\))とする。
検定する仮説は
各グループのデータは、それぞれの母平均 \(\mu_i\) のまわりに、共通の分散 \(\sigma^2\) でばらついていると仮定します。
19.3 平方和の分解¶
データのばらつきを、2つの源泉に分けて考えます。
- 群間変動:グループごとの平均が、全体の平均からどれだけずれているか(肥料の違いによる変動)
- 群内変動:同じグループの中で、データがグループ平均からどれだけずれているか(偶然の変動)
定理 19.1(一元配置の平方和の分解)
グループ \(i\) の平均を \(\bar{Y}_{i\cdot}\)、全体の平均を \(\bar{Y}\)、総データ数を \(N = \sum n_i\) とすると
証明
\(Y_{ij} - \bar{Y} = (\bar{Y}_{i\cdot} - \bar{Y}) + (Y_{ij} - \bar{Y}_{i\cdot})\) を2乗して足し合わせます。交差項は
(グループ内での偏差の和 \(\sum_j(Y_{ij} - \bar{Y}_{i\cdot})\) は0だから。第2章の定理2.1と同じ。)
第2章の「平方和の分解」、第9章の全分散の公式、第18章の回帰の平方和の分解と、同じ形が何度も現れていることに気づくでしょう。
肥料の例では
- \(S_B = 5\{(21 - 23.33)^2 + (26 - 23.33)^2 + (23 - 23.33)^2\} = 63.33\)
- \(S_W\):A のグループ内 \(1 + 1 + 4 + 9 + 1 = 16\)、B は \(10\)、C は \(10\) で、合計 \(36.00\)
- \(S_T = 63.33 + 36.00 = 99.33\)
19.4 \(F\) 検定¶
群間と群内の「分散」を比べる¶
平方和をそれぞれの自由度で割ったものを 平均平方 といいます。
- 群間の平均平方:\(V_B = \dfrac{S_B}{k - 1}\)
- 群内の平均平方:\(V_W = \dfrac{S_W}{N - k}\)
定理 19.2(分散分析の \(F\) 検定)
モデルの仮定のもとで
- \(E[V_W] = \sigma^2\)(\(H_0\) が正しいかどうかによらない)
- \(E[V_B] = \sigma^2 + \dfrac{1}{k - 1}\sum_i n_i(\mu_i - \bar{\mu})^2\)(\(\bar{\mu}\) は母平均の重みつき平均)
- \(H_0\) が正しいとき、\(F = \dfrac{V_B}{V_W} \sim F(k - 1,\ N - k)\)
証明の概略
1と3:グループ \(i\) の中の平方和 \(\sum_j(Y_{ij} - \bar{Y}_{i\cdot})^2\) を \(\sigma^2\) で割ったものは、第13章の定理13.4より \(\chi^2(n_i - 1)\) に従い、グループ平均と独立です。 グループどうしは独立なので、再生性より \(S_W/\sigma^2 \sim \chi^2(N - k)\)。これより \(E[V_W] = \sigma^2\)。
\(H_0\) のもとでは、グループ平均 \(\bar{Y}_{i\cdot} \sim N(\mu, \sigma^2/n_i)\) は互いに独立で、\(S_B/\sigma^2 \sim \chi^2(k - 1)\) となり、\(S_W\) とも独立です(\(S_W\) はグループ平均と独立なため)。 よって \(F = \frac{(S_B/\sigma^2)/(k-1)}{(S_W/\sigma^2)/(N-k)} \sim F(k - 1, N - k)\)。
2:\(\bar{Y}_{i\cdot} - \bar{Y}\) の期待値は \(\mu_i - \bar{\mu}\) なので、群間平方和の期待値には母平均の差による項が加わります。
この定理が分散分析の本質を表しています。
- \(V_W\) は、\(H_0\) が正しくても正しくなくても、誤差の分散 \(\sigma^2\) を推定している。
- \(V_B\) は、\(H_0\) が正しければ \(\sigma^2\) を推定しているが、グループの母平均に差があるとそれより大きくなる。
したがって、\(F = V_B/V_W\) が1より十分大きければ「グループ間に差がある」と判断できます。
分散分析表¶
計算結果は、次のような 分散分析表 にまとめるのが慣例です。
| 変動要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | \(F\) 値 | \(p\) 値 |
|---|---|---|---|---|---|
| 群間(肥料) | 63.33 | 2 | 31.67 | 10.56 | 0.002 |
| 群内(誤差) | 36.00 | 12 | 3.00 | ||
| 全体 | 99.33 | 14 |
\(F = 31.67/3.00 = 10.56\) は、\(F(2, 12)\) の5%点 3.89(1%点 6.93)を大きく超えており、\(p = 0.002\) です。 「3種類の肥料で、平均収穫量に差がある」と結論できます。
全体の変動のうち群間変動が占める割合 \(\eta^2 = S_B/S_T = 63.33/99.33 = 0.64\) は 効果の大きさ の指標で、回帰分析の決定係数 \(R^2\) にあたります。
2グループなら \(t\) 検定と同じ
グループが2つ(\(k = 2\))のとき、分散分析の \(F\) 値は、等分散を仮定した2標本 \(t\) 検定の \(t\) 値の2乗に等しくなり(\(F = t^2\))、同じ結論を与えます。 分散分析は2標本 \(t\) 検定の一般化なのです。
分散分析は回帰分析の一種
グループを表すダミー変数(「肥料Bなら1、それ以外は0」など)を説明変数にした重回帰分析を行うと、一元配置分散分析と同じ結果が得られます。 分散分析も回帰分析も、線形モデル という1つの枠組みの中の手法です。
19.5 多重比較¶
分散分析で有意になっても、わかるのは「どこかに差がある」ことだけで、どのグループとどのグループの間に差があるのか はわかりません。それを調べるのが 多重比較 です。
- ボンフェローニ法:\(m\) 組の比較を行うとき、各比較の有意水準を \(\alpha/m\) にする。どんな状況でも使えるが、やや保守的(検出力が低い)。
- テューキーの方法(HSD):すべてのペアを比較するための方法で、ボンフェローニ法より検出力が高い。
肥料の例でテューキーの方法を使うと(5%水準)、「平均の差が 2.92 を超えるペアは有意」となります。
| ペア | 平均の差 | 判定 |
|---|---|---|
| B − A | 5.0 | 有意 |
| B − C | 3.0 | 有意 |
| C − A | 2.0 | 有意でない |
肥料 B が他の2つより収穫量が多いが、A と C の差ははっきりしない、と解釈できます。
19.6 二元配置分散分析と交互作用¶
要因が2つある場合(例:肥料の種類 × 水やりの量)は 二元配置分散分析 を使います。総平方和を「要因Aの主効果」「要因Bの主効果」「交互作用」「誤差」に分解します。
交互作用 とは、一方の要因の効果が、もう一方の要因の水準によって変わることです。
交互作用があるときは、「肥料Bの方が良い」と単純には言えず、「水やりが多いときには肥料Bの方がずっと良い」のように、もう一方の要因の条件をつけて解釈する必要があります。
19.7 分散分析の前提と代替手段¶
分散分析は次の前提に基づいています。
- 独立性:データは互いに独立(実験の無作為化で担保する)
- 正規性:各グループの誤差は正規分布に従う(グループの大きさがある程度あれば、多少外れても頑健)
- 等分散性:各グループの分散は等しい(グループの大きさが大きく異なる場合は特に重要)
等分散性が疑わしい場合は ウェルチの分散分析、正規性が疑わしく標本が小さい場合はノンパラメトリックな クラスカル・ウォリス検定(第17章の順位和検定の一般化)が使えます。
まとめ¶
- 3つ以上のグループの平均の比較には、\(t\) 検定のくり返しではなく 分散分析 を使う。
- 総平方和 = 群間平方和 + 群内平方和。
- \(F = \dfrac{S_B/(k-1)}{S_W/(N-k)}\) は「群間のばらつき ÷ 群内のばらつき」。\(H_0\) のもとで \(F(k-1, N-k)\) に従う。
- 有意なら 多重比較(テューキー法、ボンフェローニ法)でどこに差があるかを調べる。
- 二元配置では 交互作用 に注意する。分散分析は回帰分析と同じ線形モデルの一種。
練習問題¶
問題 19.1(分散分析表の完成)
4つのグループ(各6人、合計24人)のデータについて、群間平方和が 60、総平方和が 260 でした。分散分析表を完成させ、有意水準5%で判断してください(\(F_{0.05}(3, 20) = 3.10\))。
解答
群内平方和 \(= 260 - 60 = 200\)。自由度は群間 \(4 - 1 = 3\)、群内 \(24 - 4 = 20\)、全体 23。
| 変動要因 | 平方和 | 自由度 | 平均平方 | \(F\) 値 |
|---|---|---|---|---|
| 群間 | 60 | 3 | 20 | 2.0 |
| 群内 | 200 | 20 | 10 | |
| 全体 | 260 | 23 |
\(F = 2.0 < 3.10\) なので、有意水準5%では「グループ間に差がある」とはいえません。
問題 19.2(\(t\) 検定の繰り返し)
5つのグループの平均を、すべてのペアについて有意水準5%の \(t\) 検定で比べるとします。
(1) 比較するペアは何組ですか。 (2) 各検定が独立だと仮定すると、すべての帰無仮説が正しくても、少なくとも1つが有意になる確率はおよそいくらですか。 (3) ボンフェローニ法を使うなら、各検定の有意水準をいくらにすればよいですか。
解答
(1) \(\binom{5}{2} = 10\) 組。 (2) \(1 - 0.95^{10} \approx 0.40\)。約40%です。 (3) \(0.05/10 = 0.005\)。
問題 19.3(期待値の意味)
定理19.2の2を使って、「グループの母平均がすべて等しいとき、\(F\) 統計量はおよそ1になり、差があるときは1より大きくなりやすい」理由を説明してください。
解答
\(H_0\) のもとでは \(\mu_i = \bar{\mu}\) なので \(E[V_B] = \sigma^2 = E[V_W]\) となり、分子と分母は同じ量を推定しているので、比 \(F\) はおよそ1になります。 母平均に差があると \(\sum n_i(\mu_i - \bar{\mu})^2 > 0\) なので \(E[V_B] > \sigma^2\) となり、分子だけが大きくなるので \(F\) は1より大きくなりやすくなります。 したがって、\(F\) が1より十分大きいことが、母平均の差の証拠になります(右側だけの片側検定になるのはこのためです)。