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第18章 回帰分析

この章で学ぶこと

  • 単回帰モデル と 最小二乗法 による回帰直線の導出
  • 残差の性質、平方和の分解と 決定係数
  • 回帰係数の標本分布と、\(t\) 検定・信頼区間・予測区間
  • 残差による回帰診断、平均への回帰
  • 重回帰分析 の行列表現と、交絡の調整

第3章で、2つの変数の関係を相関係数で要約しました。回帰分析 は一歩進んで、「\(x\) が変わると \(y\) は平均的にどれだけ変わるか」をモデル化し、予測や要因の分析に使います。 回帰分析は、これまでに学んだ推定・検定の理論を総動員する、統計学で最も実用的な手法の1つです。

18.1 単回帰モデル

ある店で、10日間の最高気温 \(x\)(℃)とアイスクリームの売上 \(y\)(個)を記録しました。

気温 \(x\) 20 22 24 25 27 28 30 31 33 35
売上 \(y\) 115 138 140 158 160 180 178 205 200 226

気温が高いほど売上は多い傾向がありますが、同じ気温でも日によって売上はばらつきます。この関係を次のようにモデル化します。

定義 18.1(単回帰モデル)

\[ Y_i = \beta_0 + \beta_1 x_i + \varepsilon_i \qquad (i = 1, \dots, n) \]
  • \(x_i\):説明変数(独立変数)。確率変数ではなく、与えられた値とみなす。
  • \(Y_i\):目的変数(従属変数、応答変数)。
  • \(\beta_0, \beta_1\):回帰係数(切片と傾き)。未知の母数。
  • \(\varepsilon_i\):誤差項。\(\varepsilon_1, \dots, \varepsilon_n\) は i.i.d. で \(N(0, \sigma^2)\) に従うと仮定する。
単回帰モデル
図18.1 単回帰モデルのイメージ。$x$ の値ごとに、$Y$ は直線 $\beta_0 + \beta_1 x$ を中心とする正規分布に従う。ばらつきの大きさ $\sigma$ は $x$ によらず一定。

このモデルは「\(E[Y \mid x] = \beta_0 + \beta_1 x\)」、つまり \(Y\) の条件付き期待値が \(x\) の1次関数である ことを表しています。 第9章で、2変量正規分布では条件付き期待値が直線になることを学びました(図9.3)。単回帰モデルはそれを一般化したものです。

18.2 最小二乗法

回帰直線の導出

データにいちばんよく当てはまる直線 \(y = b_0 + b_1 x\) を求めます。各データの「実際の値 \(y_i\)」と「直線による予測値 \(\hat{y}_i = b_0 + b_1 x_i\)」の差を 残差 \(e_i = y_i - \hat{y}_i\) といいます。 残差の2乗和

\[ S(b_0, b_1) = \sum_{i=1}^{n}(y_i - b_0 - b_1 x_i)^2 \]

を最小にする \(b_0, b_1\) を選ぶのが 最小二乗法 です。第2章で「二乗誤差の和を最小にする代表値は平均」と学んだことの、直線版です。

定理 18.1(最小二乗推定量)

\(S_{xx} = \sum(x_i - \bar{x})^2\)、\(S_{xy} = \sum(x_i - \bar{x})(y_i - \bar{y})\) とすると、\(S(b_0, b_1)\) を最小にするのは

\[ b_1 = \frac{S_{xy}}{S_{xx}} = r\frac{s_y}{s_x}, \qquad b_0 = \bar{y} - b_1\bar{x} \]
証明

\(S\) は \(b_0, b_1\) の2次関数(下に凸)なので、偏微分が0になる点で最小になります。

\[ \frac{\partial S}{\partial b_0} = -2\sum(y_i - b_0 - b_1 x_i) = 0, \qquad \frac{\partial S}{\partial b_1} = -2\sum x_i(y_i - b_0 - b_1 x_i) = 0 \]

この連立方程式を 正規方程式 といいます。1つめの式を \(n\) で割ると \(\bar{y} = b_0 + b_1\bar{x}\)、つまり \(b_0 = \bar{y} - b_1\bar{x}\)。これを2つめの式に代入すると

\[ \sum x_i\big\{(y_i - \bar{y}) - b_1(x_i - \bar{x})\big\} = 0 \quad\Longrightarrow\quad \sum x_i(y_i - \bar{y}) = b_1\sum x_i(x_i - \bar{x}) \]

\(\sum\bar{x}(y_i - \bar{y}) = 0\)、\(\sum\bar{x}(x_i - \bar{x}) = 0\) なので、左辺は \(S_{xy}\)、右辺の和は \(S_{xx}\) に等しく、\(b_1 = S_{xy}/S_{xx}\) が得られます。

アイスクリームのデータでは、\(\bar{x} = 27.5\)、\(\bar{y} = 170.0\)、\(S_{xx} = 210.5\)、\(S_{xy} = 1461\) なので

\[ b_1 = \frac{1461}{210.5} = 6.94, \qquad b_0 = 170.0 - 6.94 \times 27.5 = -20.87 \]

回帰直線は \(\hat{y} = -20.87 + 6.94x\) です。「気温が1℃上がると、売上は平均して約6.9個増える」と解釈できます。 (切片 \(-20.87\) は「気温0℃での売上」ですが、データの範囲から大きく外れた値なので意味のある解釈はできません。)

回帰直線と残差
図18.2 最小二乗法による回帰直線。橙の縦線が残差で、その2乗和が最小になるように直線が引かれている。直線は必ず点 $(\bar{x}, \bar{y})$ を通る。

やってみよう:最小二乗法

スライダーで直線の切片と傾きを動かして、残差平方和(オレンジの正方形の面積の合計)をできるだけ小さくしてみましょう。 「最小二乗法で当てはめる」を押すと答え合わせができます。グラフをクリックして点を追加すると、外れ値が直線に与える影響も確かめられます。

残差の性質

正規方程式から、残差について次のことがわかります。

  1. \(\sum e_i = 0\)(残差の合計は0)
  2. \(\sum x_i e_i = 0\)(残差と説明変数は無相関)
  3. \(\sum\hat{y}_i e_i = 0\)(残差と予測値は無相関)
  4. 回帰直線は点 \((\bar{x}, \bar{y})\) を通る

残差は「\(x\) では説明しきれなかった部分」なので、\(x\) や予測値と相関が残っていない、ということです。

18.3 決定係数

平方和の分解

回帰直線がデータにどのくらいよく当てはまっているかを測りましょう。各データの「平均からのずれ」を2つに分けます。

\[ \underbrace{y_i - \bar{y}}_{\text{全体のずれ}} = \underbrace{(\hat{y}_i - \bar{y})}_{\text{回帰で説明できるずれ}} + \underbrace{(y_i - \hat{y}_i)}_{\text{残差}} \]
平方和の分解
図18.3 1つのデータについて、平均からのずれを「回帰直線で説明できる部分」と「残差」に分ける。

定理 18.2(平方和の分解)

\[ \underbrace{\sum(y_i - \bar{y})^2}_{S_T\ (\text{総平方和})} = \underbrace{\sum(\hat{y}_i - \bar{y})^2}_{S_R\ (\text{回帰平方和})} + \underbrace{\sum(y_i - \hat{y}_i)^2}_{S_E\ (\text{残差平方和})} \]
証明

\(y_i - \bar{y} = (\hat{y}_i - \bar{y}) + e_i\) を2乗して足すと、交差項は

\[ 2\sum(\hat{y}_i - \bar{y})e_i = 2\sum b_1(x_i - \bar{x})e_i = 2b_1\left(\sum x_i e_i - \bar{x}\sum e_i\right) = 0 \]

(\(\hat{y}_i - \bar{y} = b_1(x_i - \bar{x})\) と残差の性質1, 2を使った。)

ずれの2乗和が「ピタゴラスの定理」のようにきれいに分解できるのは、残差が予測値と直交(無相関)しているからです。

定義 18.2(決定係数)

\[ R^2 = \frac{S_R}{S_T} = 1 - \frac{S_E}{S_T} \]

を 決定係数 という。\(0 \le R^2 \le 1\) で、\(y\) の変動のうち回帰で説明できる割合を表す。

アイスクリームのデータでは \(S_T = 10618\)、\(S_R = 10140.2\)、\(S_E = 477.8\) なので \(R^2 = 0.955\)。売上の変動の95.5%が気温で説明できます。

単回帰では、決定係数は相関係数の2乗に等しくなります(\(R^2 = r^2\))。実際、\(S_R = b_1^2 S_{xx} = S_{xy}^2/S_{xx}\) なので \(R^2 = \frac{S_{xy}^2}{S_{xx}S_{yy}} = r^2\) です。

18.4 回帰係数の推測

ここまでは記述統計としての回帰でした。誤差項に正規分布を仮定すると、回帰係数についての推定・検定ができます。

最小二乗推定量の性質

\(b_1 = \frac{S_{xy}}{S_{xx}} = \sum_i\frac{(x_i - \bar{x})}{S_{xx}}Y_i\) は、\(Y_i\) の1次式(重みつきの和)です。これを使うと、次のことがわかります。

定理 18.3(回帰係数の標本分布)

単回帰モデルのもとで

  1. \(b_1 \sim N\left(\beta_1,\ \dfrac{\sigma^2}{S_{xx}}\right)\)、\(b_0 \sim N\left(\beta_0,\ \sigma^2\left(\dfrac{1}{n} + \dfrac{\bar{x}^2}{S_{xx}}\right)\right)\)
  2. \(s^2 = \dfrac{S_E}{n - 2}\) は \(\sigma^2\) の不偏推定量で、\(\dfrac{(n - 2)s^2}{\sigma^2} \sim \chi^2(n - 2)\)。\(s^2\) は \(b_0, b_1\) と独立。
  3. したがって \(\dfrac{b_1 - \beta_1}{s/\sqrt{S_{xx}}} \sim t(n - 2)\)
証明(1の期待値と分散)

\(\sum(x_i - \bar{x}) = 0\)、\(\sum(x_i - \bar{x})x_i = S_{xx}\) に注意すると

\[ E[b_1] = \sum_i\frac{x_i - \bar{x}}{S_{xx}}(\beta_0 + \beta_1 x_i) = \frac{\beta_0\cdot 0 + \beta_1 S_{xx}}{S_{xx}} = \beta_1 \]

\(Y_i\) は独立で分散 \(\sigma^2\) なので

\[ V[b_1] = \sum_i\frac{(x_i - \bar{x})^2}{S_{xx}^2}\sigma^2 = \frac{\sigma^2}{S_{xx}} \]

\(b_1\) は独立な正規確率変数の1次式なので正規分布に従います。2の証明は第13章の定理13.4と同様の考え方でできます(推定した母数が \(\beta_0, \beta_1\) の2つなので、自由度は \(n - 2\))。

\(V[b_1] = \sigma^2/S_{xx}\) から、\(x\) の値を広い範囲にばらつかせて測定するほど、傾きは精度よく推定できる ことがわかります。

傾きの検定と信頼区間

最もよく行われるのは、「\(x\) は \(y\) に影響しない」という帰無仮説 \(H_0: \beta_1 = 0\) の検定です。

アイスクリームのデータでは \(s^2 = 477.8/8 = 59.72\)、\(s = 7.73\)、傾きの標準誤差は \(s/\sqrt{S_{xx}} = 7.73/\sqrt{210.5} = 0.533\) なので

\[ t = \frac{6.94}{0.533} = 13.0 \]

自由度8で \(p \approx 10^{-6}\)。気温の効果は明らかに有意です。\(\beta_1\) の95%信頼区間は(\(t_{0.025}(8) = 2.306\))

\[ 6.94 \pm 2.306 \times 0.533 = [5.71,\ 8.17] \]

信頼区間と予測区間

気温 \(x_0 = 29\)℃ の日について考えます。予測値は \(\hat{y}_0 = -20.87 + 6.94 \times 29 = 180.4\) 個です。ここで2種類の区間を区別することが大切です。

  • 平均的な売上 \(E[Y \mid x_0]\) の信頼区間:「29℃の日の 平均 売上」の推定の不確かさ。

    \[ \hat{y}_0 \pm t_{\alpha/2}(n - 2)\cdot s\sqrt{\frac{1}{n} + \frac{(x_0 - \bar{x})^2}{S_{xx}}} \]
  • 個々の日の売上 \(Y_0\) の予測区間:「ある29℃の日の売上」がどこに入るか。平均の推定の不確かさに、その日ごとのばらつき \(\sigma^2\) が加わる。

    \[ \hat{y}_0 \pm t_{\alpha/2}(n - 2)\cdot s\sqrt{1 + \frac{1}{n} + \frac{(x_0 - \bar{x})^2}{S_{xx}}} \]

29℃では、平均売上の95%信頼区間は \([174.5, 186.3]\)、個々の日の95%予測区間は \([161.6, 199.2]\) です。

信頼区間と予測区間
図18.4 回帰直線の95%信頼区間(濃い帯)と95%予測区間(薄い帯)。どちらも $\bar{x}$ で最も狭く、データの中心から離れるほど広がる。予測区間は、データ数をいくら増やしても $\pm 1.96\sigma$ より狭くはならない。

外挿は危険

データの範囲(20〜35℃)の外で予測することを 外挿 といいます。区間が広がるだけでなく、そもそも直線関係がその範囲でも成り立つ保証はありません(気温45℃なら暑すぎて客が来ないかもしれません)。

最小二乗法と最尤法、ガウス・マルコフの定理

誤差が正規分布に従うとき、最小二乗推定量は最尤推定量に一致します(対数尤度が \(-\frac{1}{2\sigma^2}\sum(y_i - \beta_0 - \beta_1 x_i)^2 + \text{定数}\) になるため)。

さらに、正規分布を仮定しなくても、誤差が平均0・分散一定・無相関でありさえすれば、最小二乗推定量は「\(Y_i\) の1次式で表される不偏推定量」の中で分散が最小になります。 これを ガウス・マルコフの定理 といい、最小二乗推定量は 最良線形不偏推定量(BLUE)であるといいます。

18.5 回帰診断

回帰モデルの推測は、「直線関係」「誤差の分散が一定」「誤差が独立で正規分布」という仮定のもとで成り立ちます。仮定が妥当かどうかは、残差プロット(横軸に予測値、縦軸に残差)で確認します。

残差プロット
図18.5 残差プロット。左:パターンのない理想的な状態。中:U字型のパターンは、直線では捉えきれない曲線的な関係を示す(2次の項を加えるなどの対処)。右:予測値が大きいほど残差が広がる(分散が一定でない)場合は、対数変換などを検討する。

このほか、残差のQQプロット(第17章)で正規性を、1点だけで回帰直線を大きく動かしてしまう 影響点(第3章のアンスコムの例 III, IV)がないかも確認します。

18.6 平均への回帰

回帰分析の「回帰」という名前は、19世紀の統計学者ゴルトンの研究に由来します。ゴルトンは親子の身長のデータから、「背の高い親の子は、平均すると親ほどは背が高くない」ことを発見し、これを「平均への回帰」と呼びました。

平均への回帰
図18.6 父と息子の身長(相関係数0.5のシミュレーション)。回帰直線(橙)は $y = x$ の線(点線)より傾きが緩やか。背の高い父の息子は平均に近づき、背の低い父の息子も平均に近づく。

第3章で見たように、標準化した変数で考えると回帰直線の傾きは相関係数 \(r\) で、\(|r| < 1\) なので予測値は必ず平均の側に引き寄せられます。 これは遺伝の不思議な性質ではなく、相関が完全でない2つの量の間で必ず起こる統計的な現象 です。

平均への回帰による錯覚

  • 1回目のテストで成績が最も悪かった生徒たちに補習をしたら、2回目は平均して成績が上がった → 補習の効果とは限らない。1回目の極端な成績には「たまたま運が悪かった」分が含まれているので、補習をしなくても2回目は平均に近づく。
  • 事故が多発した交差点に対策をしたら事故が減った → 同様に、偶然多かった年の翌年は減りやすい。

効果を正しく評価するには、対策をしない 対照群 と比較する必要があります。

18.7 重回帰分析

複数の説明変数

目的変数に影響する要因が複数ある場合は、説明変数を増やした 重回帰モデル を使います。

\[ Y_i = \beta_0 + \beta_1 x_{i1} + \beta_2 x_{i2} + \cdots + \beta_p x_{ip} + \varepsilon_i \]

行列による表現

重回帰は、行列を使うと見通しよく扱えます。

\[ \boldsymbol{y} = \begin{pmatrix} y_1 \\ \vdots \\ y_n \end{pmatrix}, \quad X = \begin{pmatrix} 1 & x_{11} & \cdots & x_{1p} \\ \vdots & \vdots & & \vdots \\ 1 & x_{n1} & \cdots & x_{np} \end{pmatrix}, \quad \boldsymbol{\beta} = \begin{pmatrix} \beta_0 \\ \vdots \\ \beta_p \end{pmatrix} \]

とおくと、モデルは \(\boldsymbol{y} = X\boldsymbol{\beta} + \boldsymbol{\varepsilon}\) と書けます。

定理 18.4(重回帰の最小二乗推定量)

残差平方和 \(S(\boldsymbol{b}) = (\boldsymbol{y} - X\boldsymbol{b})^\top(\boldsymbol{y} - X\boldsymbol{b})\) を最小にする \(\boldsymbol{b}\) は、正規方程式 \(X^\top X\boldsymbol{b} = X^\top\boldsymbol{y}\) の解であり、\(X^\top X\) が逆行列をもつとき

\[ \hat{\boldsymbol{\beta}} = (X^\top X)^{-1}X^\top\boldsymbol{y} \]

また \(E[\hat{\boldsymbol{\beta}}] = \boldsymbol{\beta}\)、\(V[\hat{\boldsymbol{\beta}}] = \sigma^2(X^\top X)^{-1}\)(分散共分散行列)であり、\(\sigma^2\) の不偏推定量は \(s^2 = \dfrac{S_E}{n - p - 1}\)。

証明(正規方程式の導出)

\(S(\boldsymbol{b}) = \boldsymbol{y}^\top\boldsymbol{y} - 2\boldsymbol{b}^\top X^\top\boldsymbol{y} + \boldsymbol{b}^\top X^\top X\boldsymbol{b}\) を \(\boldsymbol{b}\) で微分(勾配をとる)すると

\[ \frac{\partial S}{\partial\boldsymbol{b}} = -2X^\top\boldsymbol{y} + 2X^\top X\boldsymbol{b} = \boldsymbol{0} \]

よって \(X^\top X\boldsymbol{b} = X^\top\boldsymbol{y}\)。 分散は、\(\hat{\boldsymbol{\beta}} = A\boldsymbol{y}\)(\(A = (X^\top X)^{-1}X^\top\))が \(\boldsymbol{y}\) の1次変換で、\(V[\boldsymbol{y}] = \sigma^2 I\) なので \(V[\hat{\boldsymbol{\beta}}] = A(\sigma^2 I)A^\top = \sigma^2(X^\top X)^{-1}X^\top X(X^\top X)^{-1} = \sigma^2(X^\top X)^{-1}\)。

正規方程式 \(X^\top(\boldsymbol{y} - X\hat{\boldsymbol{\beta}}) = \boldsymbol{0}\) は、「残差ベクトルが \(X\) のすべての列と直交する」ことを意味します。 幾何学的には、予測値 \(\hat{\boldsymbol{y}} = X\hat{\boldsymbol{\beta}}\) は、ベクトル \(\boldsymbol{y}\) を「\(X\) の列が張る空間」へ 正射影 したものです。平方和の分解がピタゴラスの定理になるのはこのためです。

偏回帰係数の意味:交絡の調整

重回帰の係数 \(\beta_j\) は「他の説明変数の値を一定に保ったまま、\(x_j\) だけを1増やしたときの \(y\) の変化」を表し、偏回帰係数 と呼ばれます。

第3章のシンプソンのパラドックスの例(運動時間とコレステロール値)を思い出しましょう。

  • 運動時間 \(x_1\) だけで単回帰すると、傾きは \(+6.75\)(運動するほどコレステロール値が高い?)
  • 年齢 \(x_2\) も説明変数に加えて重回帰すると、\(\hat{y} = 118.2 - 6.28x_1 + 2.14x_2\) となり、運動時間の係数は \(-6.28\)
重回帰による交絡の調整
図18.7 年齢を説明変数に加えると、「同じ年齢どうしで比べたとき」の運動時間の効果(実線の傾き)が推定され、単回帰(点線)とは逆に、運動するほどコレステロール値が低いという関係が現れる。

年齢という交絡因子をモデルに含めることで、「同じ年齢の人どうしで比べたら」という比較ができるようになったのです。 ただし、重回帰で調整できるのは モデルに含めた 交絡因子だけです。測定していない交絡因子の影響は取り除けないので、因果関係の主張にはやはり慎重さが必要です。

重回帰で注意すること

  • 自由度調整済み決定係数:説明変数を増やすと、役に立たない変数であっても \(R^2\) は決して減らないので、変数の数の影響を補正した \(\bar{R}^2 = 1 - \frac{S_E/(n - p - 1)}{S_T/(n - 1)}\) を使う。
  • 多重共線性:説明変数どうしの相関が非常に強いと、\(X^\top X\) が逆行列をもたない(またはそれに近い)状態になり、係数の推定が不安定になる。
  • 質的な説明変数:「男性なら1、女性なら0」のような ダミー変数 を使えば、質的変数も説明変数にできる。

さらに先へ

目的変数が「合格/不合格」のような2値なら ロジスティック回帰、カウントデータなら ポアソン回帰 を使います。 これらは回帰分析を、正規分布以外の分布に拡張した 一般化線形モデル(GLM)としてまとめられ、推定には最尤法(第14章)が使われます。

まとめ

  • 単回帰モデル \(Y_i = \beta_0 + \beta_1 x_i + \varepsilon_i\)。最小二乗法で \(b_1 = S_{xy}/S_{xx}\)、\(b_0 = \bar{y} - b_1\bar{x}\)。
  • 平方和の分解 \(S_T = S_R + S_E\)。決定係数 \(R^2 = S_R/S_T\) は説明できる変動の割合で、単回帰では \(r^2\)。
  • \(b_1 \sim N(\beta_1, \sigma^2/S_{xx})\)。\(\sigma^2\) を \(s^2 = S_E/(n-2)\) で推定すると \(t(n-2)\) で推測できる。
  • 予測区間 は 信頼区間 より広い。外挿は危険。残差プロットで仮定を確認する。
  • 相関が完全でなければ 平均への回帰 が必ず起こる。
  • 重回帰は \(\hat{\boldsymbol{\beta}} = (X^\top X)^{-1}X^\top\boldsymbol{y}\)。偏回帰係数は他の変数を固定したときの効果で、交絡の調整に使える。

練習問題

問題 18.1(回帰直線の計算)

5組のデータ \((x, y) = (1, 2), (2, 4), (3, 5), (4, 4), (5, 5)\) について、回帰直線と決定係数を求めてください。

解答

\(\bar{x} = 3\)、\(\bar{y} = 4\)、\(S_{xx} = 10\)、\(S_{xy} = 6\)、\(S_{yy} = 6\)(第3章の計算を \(n\) 倍したもの)。

\(b_1 = 6/10 = 0.6\)、\(b_0 = 4 - 0.6 \times 3 = 2.2\) なので \(\hat{y} = 2.2 + 0.6x\)。 \(R^2 = \frac{S_{xy}^2}{S_{xx}S_{yy}} = \frac{36}{60} = 0.6\)。

問題 18.2(回帰係数の検定)

\(n = 20\) のデータで \(S_{xx} = 50\)、\(S_{xy} = 120\)、\(S_{yy} = 400\) でした。

(1) 回帰係数 \(b_1\) と決定係数を求めてください。 (2) \(H_0: \beta_1 = 0\) を有意水準5%で検定してください(\(t_{0.025}(18) = 2.101\))。

解答

(1) \(b_1 = 120/50 = 2.4\)。\(S_R = b_1 S_{xy} = 288\) なので \(R^2 = 288/400 = 0.72\)。

(2) \(S_E = 400 - 288 = 112\)、\(s^2 = 112/18 = 6.22\)、標準誤差は \(\sqrt{6.22/50} = 0.353\)。 \(t = 2.4/0.353 = 6.80 > 2.101\) なので \(H_0\) を棄却します。

問題 18.3(予測区間と信頼区間)

予測区間が信頼区間より必ず広くなる理由を、式の形から説明してください。また、\(n \to \infty\) としたとき、それぞれの区間の幅はどうなりますか。

解答

予測区間の根号の中には、信頼区間にない「\(1\)」が加わっています。これは個々の観測値がもつ誤差 \(\varepsilon_0\) の分散 \(\sigma^2\) に由来します。 \(n \to \infty\) では \(\frac{1}{n} \to 0\)、\(S_{xx} \to \infty\)(\(x\) がある程度散らばっていれば)なので、信頼区間の幅は 0 に近づきますが、予測区間の幅は \(2 \times 1.96\sigma\) に近づき、それより狭くはなりません。 平均はいくらでも正確に推定できますが、個々の値のばらつきはデータを増やしても消えないからです。

問題 18.4(平均への回帰)

あるスポーツで、シーズン前半に打率が最も高かった10人の選手の後半の打率を調べると、10人の平均は前半より下がっていました。 「前半に活躍した選手は油断して調子を落とす」という解釈は正しいでしょうか。

解答

必ずしも正しくありません。前半の打率は「実力」と「運」の和と考えられ、前半に最も高かった選手には、運が良かった選手が多く含まれます。 後半には運の要素がリセットされるので、油断がなくても打率は平均に近づく(下がる)と予想されます。これは 平均への回帰 の典型例です。 前半に打率が最も低かった選手たちの後半の打率は、逆に上がる傾向があるはずです。