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第2章 代表値と散らばり

この章で学ぶこと

  • データの「中心」を表す代表値:平均値・中央値・最頻値
  • データの「散らばり」を表す指標:範囲・四分位範囲・分散・標準偏差
  • 箱ひげ図の描き方と読み方
  • 平均値が「二乗誤差を最小にする値」であること
  • 標準化(\(z\) 得点)と偏差値

第1章ではグラフでデータの様子をつかみました。この章では、分布の特徴を 1つの数値 に要約する方法を学びます。 要約の基本は「中心はどこか」と「どのくらい散らばっているか」の2つです。

2.1 データの中心を表す ― 代表値

平均値

\(n\) 個のデータ \(x_1, x_2, \dots, x_n\) の 平均値(mean)は、すべてを足して個数で割ったものです。

定義 2.1(平均値)

\[ \bar{x} = \frac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n}{n} = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i \]

\(\bar{x}\) は「エックス・バー」と読みます。

\(\sum\)(シグマ)は「足し合わせる」ことを表す記号で、\(\sum_{i=1}^{n} x_i\) は「\(i\) を 1 から \(n\) まで動かして \(x_i\) を全部足す」という意味です。 Σ記号に慣れていない人は 付録A 数学の準備 を見てください。

第1章の40人のテストの点数では、合計が 2400 点なので平均値は \(\bar{x} = 2400/40 = 60\) 点です。

平均値は「つり合いの点」

平均値には、物理的なわかりやすいイメージがあります。数直線を1本の板とみなし、データの位置に同じ重さのおもりを置くと、 平均値の位置で板がちょうどつり合います。

平均値はつり合いの点
図2.1 データ 2, 3, 3, 4, 8 をおもりとして置くと、平均値 4 の位置でつり合う。右端の 8 は1つだけでも支点から遠いので、平均を右に引っ張る力が強い。

これを式で表したのが、次の性質です。各データと平均値との差 \(x_i - \bar{x}\) を 偏差 といいます。

定理 2.1(偏差の和は 0)

\[ \sum_{i=1}^{n} (x_i - \bar{x}) = 0 \]
証明

\(\sum\) は足し算なので、項ごとに分けられます。\(\bar{x}\) は \(i\) によらない定数なので \(n\) 回足すと \(n\bar{x}\) です。

\[ \sum_{i=1}^{n} (x_i - \bar{x}) = \sum_{i=1}^{n} x_i - n\bar{x} = n\bar{x} - n\bar{x} = 0 \]

(平均値の定義から \(\sum x_i = n\bar{x}\) を使いました。)

図2.1でいえば、支点より左の「てこの力」(\(-2, -1, -1, 0\) の合計 \(-4\))と右の「てこの力」(\(+4\))が打ち消し合っている、ということです。

中央値

データを小さい順に並べたとき、ちょうど真ん中にくる値を 中央値(median)といいます。

定義 2.2(中央値)

データを小さい順に並べたものを \(x_{(1)} \le x_{(2)} \le \cdots \le x_{(n)}\) とします。

  • \(n\) が奇数のとき:真ん中の \(x_{\left(\frac{n+1}{2}\right)}\)
  • \(n\) が偶数のとき:真ん中の2つの平均 \(\dfrac{x_{\left(\frac{n}{2}\right)} + x_{\left(\frac{n}{2}+1\right)}}{2}\)

40人の点数では \(n = 40\) が偶数なので、20番目と21番目の平均をとって \((60 + 60)/2 = 60\) 点です。

最頻値

データの中で最も多く現れる値を 最頻値(mode)といいます。40人の点数では 60 点が3人で最も多いので、最頻値は 60 点です。 度数分布表から求める場合は、度数が最大の階級の階級値を最頻値とします(この例では 60〜70 点の階級値 65 点)。

最頻値は、名義尺度の質的変数(例:最も人気のある果物)にも使える唯一の代表値です(順序尺度なら中央値も使えます)。

平均値と中央値はどちらがよいか

5人の年収(万円)が次のようだったとします。

\[ 300,\quad 350,\quad 400,\quad 450,\quad 3000 \]

平均値は \((300+350+400+450+3000)/5 = 900\) 万円ですが、5人中4人は 450 万円以下です。 一方、中央値は 400 万円で、「典型的な人」の感覚に近い値です。

平均値は1つの極端な値(外れ値)に強く引っ張られます(図2.1の「てこ」を思い出してください)。 中央値は順番だけで決まるので、最大値が 3000 万円でも 3 億円でも変わりません。このように外れ値の影響を受けにくい性質を 頑健性(ロバスト性)といいます。

右に歪んだ分布での平均値・中央値・最頻値
図2.2 右に裾が長い分布(年収の分布のイメージ)では、長い裾に引っ張られて 最頻値 < 中央値 < 平均値 の順に並ぶ。左右対称な分布では3つはほぼ一致する。
代表値 長所 短所
平均値 すべてのデータを使う。数学的に扱いやすい 外れ値に弱い
中央値 外れ値に強い 計算に並べ替えが必要。数学的な扱いがやや難しい
最頻値 質的データにも使える データが少ないと不安定。山が2つあると定まらない

どれを使うべき?

分布が左右対称に近ければ平均値、歪んでいたり外れ値があったりすれば中央値も併記する、のが基本です。 「平均年収」と「年収の中央値」が大きく違うのは、所得の分布が右に歪んでいるからです。

度数分布表から平均を求める

元のデータがなく度数分布表しかないときは、各階級のデータがすべて階級値 \(m_k\) に等しいとみなして計算します。

\[ \bar{x} \approx \frac{1}{n}\sum_{k} m_k f_k \]

第1章の度数分布表では

\[ \frac{15 \times 1 + 35 \times 2 + 45 \times 5 + 55 \times 10 + 65 \times 11 + 75 \times 8 + 85 \times 3}{40} = \frac{2430}{40} = 60.75 \]

となり、元データの平均 60 点に近い値が得られます(階級内での値の偏りのぶんだけずれます)。

2.2 散らばりを表す(1)― 範囲・四分位数・箱ひげ図

平均値が同じでも、データの散らばり具合はさまざまです。代表値だけでなく、散らばりの指標もあわせて見ることが大切です。

範囲

最も簡単な指標は 範囲(レンジ)= 最大値 − 最小値 です。40人の点数では \(88 - 18 = 70\) 点です。 わかりやすい反面、最大値と最小値という2つの値だけで決まるので、外れ値の影響をまともに受けます。

四分位数と四分位範囲

データを小さい順に並べて4等分する位置の値を 四分位数 といいます。

定義 2.3(四分位数)

データを小さい順に並べ、中央値を境に前半と後半に分けます(\(n\) が奇数のときは中央値自身はどちらにも含めない)。

  • 第1四分位数 \(Q_1\):前半部分の中央値
  • 第2四分位数 \(Q_2\):全体の中央値
  • 第3四分位数 \(Q_3\):後半部分の中央値

\(Q_3 - Q_1\) を 四分位範囲(IQR: interquartile range)といいます。

40人の点数では、前半20人の中央値は10番目と11番目の平均で \(Q_1 = (51+51)/2 = 51\)、 後半20人の中央値は30番目と31番目の平均で \(Q_3 = (70+70)/2 = 70\) です。四分位範囲は \(70 - 51 = 19\) 点です。

四分位範囲は「真ん中のおよそ50%のデータが収まる幅」を表し、両端の外れ値の影響をほとんど受けません。

四分位数の定義は1つではない

四分位数の求め方にはいくつかの流儀があり、Excel の QUARTILE.INC や Python の numpy.percentile などは 上の方法とは少し異なる値を返すことがあります。データが多ければ違いはわずかです。

箱ひげ図

最小値・\(Q_1\)・中央値・\(Q_3\)・最大値 の5つの数(五数要約)を図にしたものが 箱ひげ図 です。

ヒストグラムと箱ひげ図
図2.3 40人の点数のヒストグラム(上)と箱ひげ図(下)。箱の中には真ん中のおよそ半数(端の値を含めて22人)が入る。18点は外れ値として別に描かれている。

描き方は次の通りです。

  1. \(Q_1\) から \(Q_3\) までを箱で描き、中央値の位置に線を引く。
  2. 箱の両端から、最小値と最大値までひげを伸ばす。
  3. ただし、外れ値の基準を設けて、それを超える値はひげに含めず点で描くことが多い。よく使われる基準は

    \[ Q_1 - 1.5 \times \mathrm{IQR} \quad\text{より小さい}\quad\text{または}\quad Q_3 + 1.5 \times \mathrm{IQR}\quad\text{より大きい} \]

40人の点数では \(51 - 1.5 \times 19 = 22.5\) なので、18 点は外れ値と判定されます。ひげは外れ値を除いた最小値 33 点まで伸ばします。

箱ひげ図はコンパクトなので、複数のグループを並べて比較する のに特に便利です(例:クラス別の点数の比較)。 ただし、山が2つあるかどうか(二峰性)は箱ひげ図からはわからないので、ヒストグラムとあわせて見るのが理想です。

2.3 散らばりを表す(2)― 分散と標準偏差

四分位範囲はデータの一部(順位)しか使いません。すべてのデータを使った散らばりの指標を作りましょう。

偏差の「平均」をとりたいが……

散らばりとは「各データが平均値からどのくらい離れているか」なので、偏差 \(x_i - \bar{x}\) の平均をとればよさそうです。 ところが定理2.1より偏差の和は常に 0 なので、平均も 0 になってしまいます。プラスとマイナスが打ち消し合うからです。

符号を消す方法として、絶対値をとる方法と二乗する方法がありますが、統計学では主に 二乗 を使います。

定義 2.4(分散と標準偏差)

\[ s^2 = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} (x_i - \bar{x})^2 \]

を 分散(variance)といいます。偏差の二乗の平均です。分散の正の平方根

\[ s = \sqrt{s^2} = \sqrt{\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} (x_i - \bar{x})^2} \]

を 標準偏差(standard deviation, SD)といいます。

具体例で計算してみる

データ \(3, 5, 6, 7, 9\) の分散を求めます。平均は \(\bar{x} = 30/5 = 6\) です。

\(x_i\) 3 5 6 7 9 合計
偏差 \(x_i - \bar{x}\) \(-3\) \(-1\) \(0\) \(1\) \(3\) \(0\)
偏差の二乗 9 1 0 1 9 20

分散は \(s^2 = 20/5 = 4\)、標準偏差は \(s = \sqrt{4} = 2\) です。

偏差の二乗を正方形の面積として表す
図2.4 偏差の二乗は、平均値からの距離を1辺とする正方形の面積。分散はこの正方形の面積の平均であり、標準偏差は「平均的な正方形」の1辺の長さにあたる。

二乗するので、平均から遠いデータほど大きな正方形になり、分散に大きく効きます。

なぜ標準偏差を使うのか

分散は二乗しているので、単位も二乗になってしまいます(点数なら「点²」)。 平方根をとった標準偏差は 元のデータと同じ単位 になるので、「平均からだいたいこのくらい離れている」という感覚的な意味を持ちます。

40人の点数では分散 \(s^2 = 210.6\)、標準偏差 \(s \approx 14.5\) 点です。「平均 60 点、だいたい ±15 点くらいの範囲に多くの人がいる」と読めます。

平均が同じで標準偏差が異なる分布
図2.5 平均が同じでも、標準偏差が大きいほど分布は横に広がる。

標準偏差の目安

山型で左右対称に近い分布では、おおよそ

  • 平均 ± 1 標準偏差 の範囲に全体の約 68%
  • 平均 ± 2 標準偏差 の範囲に全体の約 95%

のデータが入ります。これは第8章で学ぶ正規分布の性質です。

分散の計算公式

分散は次の形でも計算できます。手計算や理論的な計算でよく使う大切な公式です。

定理 2.2(分散の計算公式)

\[ s^2 = \overline{x^2} - \bar{x}^2 \qquad \left(\text{ただし } \overline{x^2} = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i^2\right) \]

つまり、分散 =(2乗の平均)−(平均の2乗) です。

証明

\((x_i - \bar{x})^2 = x_i^2 - 2\bar{x}x_i + \bar{x}^2\) を展開して足し合わせます。

\[ \begin{aligned} s^2 &= \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} \left(x_i^2 - 2\bar{x}x_i + \bar{x}^2\right) \\ &= \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i^2 - 2\bar{x}\cdot\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i + \frac{1}{n}\cdot n\bar{x}^2 \\ &= \overline{x^2} - 2\bar{x}\cdot\bar{x} + \bar{x}^2 = \overline{x^2} - \bar{x}^2 \end{aligned} \]

先ほどのデータ \(3, 5, 6, 7, 9\) で確かめると、2乗の平均は \((9 + 25 + 36 + 49 + 81)/5 = 40\) なので、\(s^2 = 40 - 6^2 = 4\) となり一致します。

この公式は第6章で確率変数の分散 \(V[X] = E[X^2] - (E[X])^2\) としてそのまま再登場します。

\(n\) で割るか、\(n-1\) で割るか

分散の定義で \(n\) ではなく \(n-1\) で割ったもの

\[ u^2 = \frac{1}{n-1}\sum_{i=1}^{n}(x_i - \bar{x})^2 \]

を使うこともあり、不偏分散 といいます。Excel の VAR.S や Python の pandas のデフォルトはこちらです。 手元のデータそのものの散らばりを記述するなら \(n\) で割り、標本から母集団の分散を推定するなら \(n-1\) で割ります。 なぜ \(n-1\) なのかは第13章・第14章で詳しく説明します。

2.4 平均値と中央値の「最適性」

平均値や分散の定義は、天下り的に感じるかもしれません。実は、平均値には次のような自然な意味づけがあります。

「データ全体を1つの値 \(a\) で代表させたい。代表させたときの誤差(ずれ)の合計をできるだけ小さくしたい」と考えます。 誤差を二乗で測るなら、\(a\) の関数

\[ L(a) = \sum_{i=1}^{n} (x_i - a)^2 \]

を最小にする \(a\) を探すことになります。

定理 2.3(平均値は二乗誤差の和を最小にする)

任意の実数 \(a\) について

\[ \sum_{i=1}^{n} (x_i - a)^2 = \sum_{i=1}^{n} (x_i - \bar{x})^2 + n(\bar{x} - a)^2 \]

が成り立ちます。したがって \(L(a)\) は \(a = \bar{x}\) のとき最小になり、その最小値は \(n s^2\) です。

証明

\(x_i - a = (x_i - \bar{x}) + (\bar{x} - a)\) と分解して二乗します。

\[ \sum_{i=1}^{n} (x_i - a)^2 = \sum_{i=1}^{n} (x_i - \bar{x})^2 + 2(\bar{x} - a)\sum_{i=1}^{n}(x_i - \bar{x}) + n(\bar{x} - a)^2 \]

定理2.1より真ん中の項は 0 です。右辺第2項 \(n(\bar{x}-a)^2\) は 0 以上で、\(a = \bar{x}\) のときだけ 0 になります。

一方、誤差を絶対値で測った \(\sum |x_i - a|\) を最小にするのは 中央値 です。 \(a\) を少し右に動かすと、\(a\) より左にあるデータとの距離は増え、右にあるデータとの距離は減ります。 左右のデータの個数が等しい点、つまり中央値で増減がつり合って最小になる、というわけです。

二乗誤差と絶対誤差の和
図2.6 データ 2, 3, 3, 4, 8 について、代表値 $a$ を動かしたときの誤差の和。二乗誤差(左)は平均値 4 で、絶対誤差(右)は中央値 3 で最小になる。

この考え方は何度も登場する

「誤差の二乗和を最小にする値を選ぶ」という考え方は 最小二乗法 と呼ばれ、第18章の回帰分析の土台になります。 定理2.3の分解(全体の平方和 = 平均まわりの平方和 + ずれの平方和)も、分散分析(第19章)などで形を変えて繰り返し現れます。

2.5 データの変換と標準化

1次変換で平均・標準偏差はどう変わるか

温度を摂氏(℃)から華氏(℉)に変換するには \(F = 1.8C + 32\) とします。このような1次式による変換で、平均や標準偏差はどう変わるでしょうか。

定理 2.4(1次変換と平均・分散)

データ \(x_1, \dots, x_n\) を \(y_i = a x_i + b\)(\(a, b\) は定数)と変換すると

\[ \bar{y} = a\bar{x} + b, \qquad s_y^2 = a^2 s_x^2, \qquad s_y = |a|\, s_x \]
証明

平均:\(\bar{y} = \frac{1}{n}\sum (a x_i + b) = a \cdot \frac{1}{n}\sum x_i + b = a\bar{x} + b\)。

分散:\(y_i - \bar{y} = (a x_i + b) - (a\bar{x} + b) = a(x_i - \bar{x})\) なので

\[ s_y^2 = \frac{1}{n}\sum a^2 (x_i - \bar{x})^2 = a^2 s_x^2 \]

直感的には、全員に \(b\) を足す(平行移動)と中心は動くが散らばりは変わらず、全員を \(a\) 倍する(拡大)と散らばりも \(|a|\) 倍になる、ということです。

標準化と \(z\) 得点

各データから平均を引き、標準偏差で割る変換

\[ z_i = \frac{x_i - \bar{x}}{s} \]

を 標準化 といい、\(z_i\) を \(z\) 得点(標準得点)といいます。 定理2.4で \(a = 1/s\)、\(b = -\bar{x}/s\) とすると、標準化したデータは 平均 0、標準偏差 1 になることがわかります。

\(z\) 得点は「平均から標準偏差何個ぶん離れているか」を表すので、平均や散らばりの異なるデータ同士を比較できます。

例:A さんは国語で 70 点(クラス平均 60 点、標準偏差 5 点)、数学で 75 点(平均 50 点、標準偏差 15 点)をとりました。どちらが「よくできた」といえるでしょうか。

\[ z_{\text{国語}} = \frac{70 - 60}{5} = 2.0, \qquad z_{\text{数学}} = \frac{75 - 50}{15} \approx 1.67 \]

素点は数学の方が高いですが、クラスの中での位置で見ると国語の方が上位です。

z得点による比較
図2.7 色をつけた部分が「自分より上の人」の割合のイメージ。国語の方がその割合が小さい。

日本でおなじみの 偏差値 は、\(z\) 得点を平均 50、標準偏差 10 になるように変換したものです。

\[ \text{偏差値} = 50 + 10 z \]

上の例では国語の偏差値は 70、数学の偏差値は約 66.7 です。

変動係数

ゾウの体重の標準偏差が 500 kg、ネズミの体重の標準偏差が 5 g だったとして、「ゾウの方が散らばりが大きい」というのは公平な比較ではありません。 平均の大きさが全く違うからです。そこで、標準偏差を平均で割った

\[ \mathrm{CV} = \frac{s}{\bar{x}} \]

を 変動係数(coefficient of variation)といい、平均に対する相対的な散らばりを表します(比率尺度のデータで使います)。

2.6 発展:どんなデータでも成り立つ不等式

「平均 ± 2 標準偏差に約 95%」は山型の分布での目安でした。では、分布の形がまったくわからないとき、何かいえるでしょうか。 実は、どんなデータに対しても次のことが成り立ちます。

定理 2.5(チェビシェフの不等式:データ版)

任意の \(k > 0\) について、平均値から \(k\) 標準偏差以上離れたデータの割合は \(1/k^2\) 以下です。

\[ \frac{\#\{i : |x_i - \bar{x}| \ge k s\}}{n} \le \frac{1}{k^2} \]

(\(\#\{\cdots\}\) は条件を満たすデータの個数を表します。)

証明

条件 \(|x_i - \bar{x}| \ge ks\) を満たすデータの集合を \(A\)、その個数を \(m\) とします。分散の定義から

\[ n s^2 = \sum_{i=1}^{n} (x_i - \bar{x})^2 \ge \sum_{i \in A} (x_i - \bar{x})^2 \ge \sum_{i \in A} k^2 s^2 = m k^2 s^2 \]

1つめの不等号は「0 以上の項を捨てたので小さくなる」、2つめは「\(A\) の中では \((x_i - \bar{x})^2 \ge k^2 s^2\)」を使いました。 両辺を \(n k^2 s^2\) で割ると \(m/n \le 1/k^2\) が得られます。

たとえば \(k = 2\) とすると、どんなデータでも 平均 ± 2 標準偏差の外にあるデータは 25% 以下、つまり内側に 75% 以上が入ります。 山型の分布の 95% に比べると控えめな値ですが、分布の形を一切仮定していない点が強力です。 この不等式は第6章で確率の言葉に翻訳され、第11章で大数の法則を証明するときの鍵になります。

まとめ

  • 代表値には 平均値・中央値・最頻値 がある。平均値は外れ値に弱く、中央値は強い。右に歪んだ分布では 最頻値 < 中央値 < 平均値。
  • 偏差の和は常に 0。平均値は「つり合いの点」であり、二乗誤差の和を最小にする値。
  • 散らばりの指標には 範囲・四分位範囲・分散・標準偏差 がある。箱ひげ図は五数要約を図示したもの。
  • 分散 = 偏差の二乗の平均 =(2乗の平均)−(平均の2乗)。標準偏差は分散の平方根で、データと同じ単位をもつ。
  • 1次変換 \(y = ax + b\) で、平均は \(a\bar{x} + b\)、標準偏差は \(|a|\) 倍になる。標準化すると平均 0、標準偏差 1。

練習問題

問題 2.1(基本統計量の計算)

データ \(4, 7, 7, 9, 13\) について、平均値・中央値・最頻値・分散・標準偏差を求めてください。

解答
  • 平均値:\((4+7+7+9+13)/5 = 40/5 = 8\)
  • 中央値:小さい順に並べて3番目なので 7
  • 最頻値:2回現れる 7
  • 分散:偏差は \(-4, -1, -1, 1, 5\)、その二乗の和は \(16+1+1+1+25 = 44\) なので \(s^2 = 44/5 = 8.8\)
  • 標準偏差:\(s = \sqrt{8.8} \approx 2.97\)

計算公式でも確かめましょう。2乗の平均は \((16+49+49+81+169)/5 = 364/5 = 72.8\) なので \(s^2 = 72.8 - 64 = 8.8\)。一致します。

問題 2.2(平均の更新)

10人のグループの平均身長は 165 cm でした。ここに身長 187 cm の人が1人加わると、11人の平均身長はいくつになりますか。

解答

10人の合計は \(165 \times 10 = 1650\) cm。11人の合計は \(1650 + 187 = 1837\) cm なので、平均は \(1837/11 = 167\) cm です。

問題 2.3(単位の変換)

ある都市の1年間の日ごとの最高気温は、平均 20℃、標準偏差 5℃ でした。華氏(\(F = 1.8C + 32\))に直すと、平均と標準偏差はいくつになりますか。

解答

定理2.4より、平均は \(1.8 \times 20 + 32 = 68\) ℉、標準偏差は \(1.8 \times 5 = 9\) ℉ です。 標準偏差には \(+32\) の平行移動は影響しないことに注意しましょう。

問題 2.4(外れ値の判定)

あるデータの五数要約が、最小値 12、\(Q_1 = 30\)、中央値 36、\(Q_3 = 42\)、最大値 65 でした。 「\(Q_1 - 1.5\,\mathrm{IQR}\) 未満、または \(Q_3 + 1.5\,\mathrm{IQR}\) より大」を外れ値の基準とするとき、最小値と最大値は外れ値ですか。

解答

\(\mathrm{IQR} = 42 - 30 = 12\) なので、基準は下側 \(30 - 18 = 12\)、上側 \(42 + 18 = 60\) です。 最小値 12 はちょうど下側の基準と等しく「12 未満」ではないので外れ値ではありません。最大値 65 は 60 より大きいので外れ値です。

問題 2.5(証明問題)

定理2.3を、\(L(a) = \sum (x_i - a)^2\) を \(a\) で微分する方法で示してください。

解答

\(L(a)\) は \(a\) の2次関数で、\(a^2\) の係数は \(n > 0\) なので下に凸です。微分すると

\[ L'(a) = \sum_{i=1}^{n} 2(x_i - a)(-1) = -2\left(\sum_{i=1}^{n} x_i - na\right) \]

\(L'(a) = 0\) とおくと \(a = \frac{1}{n}\sum x_i = \bar{x}\)。下に凸なので、ここで最小になります。

問題 2.6(チェビシェフの不等式)

あるデータの平均が 50、標準偏差が 8 でした。分布の形がわからないとき、26 より大きく 74 より小さいデータの割合は少なくとも何%といえますか。

解答

\(26 = 50 - 3 \times 8\)、\(74 = 50 + 3 \times 8\) なので、平均から 3 標準偏差以上離れたデータの割合は \(1/3^2 = 1/9\) 以下です。 よって内側のデータの割合は少なくとも \(1 - 1/9 = 8/9 \approx 88.9\%\) です。