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第9章 多次元の確率分布

この章で学ぶこと

  • 2つ以上の確率変数を同時に扱う 同時分布、そこから得られる 周辺分布・条件付き分布
  • 確率変数の 独立性 と、統計学の前提となる「独立同分布」
  • 共分散・相関係数 と、和の分散の公式 \(V[X + Y] = V[X] + V[Y] + 2\mathrm{Cov}(X, Y)\)
  • 標本平均の分散 \(V[\bar{X}] = \sigma^2/n\) ——推測統計の出発点
  • 条件付き期待値 と繰り返し期待値の法則
  • 2変量正規分布

これまでは確率変数を1つずつ扱ってきました。しかし現実には「身長と体重」「気温と売上」のように、複数の量の 関係 を知りたいことがほとんどです。 また、統計学では \(n\) 個のデータを \(n\) 個の確率変数 \(X_1, \dots, X_n\) とみなすので、多変数の確率論は推測統計の土台そのものです。

9.1 同時分布と周辺分布

離散型の同時分布

コインを3回投げ、\(X\) = 1・2回目の表の数、\(Y\) = 2・3回目の表の数 とします。2回目のコインが両方に関わっているので、\(X\) と \(Y\) には関係がありそうです。 8通りの結果それぞれで \((X, Y)\) の値を調べて集計すると、次の表が得られます。

\(Y = 0\) \(Y = 1\) \(Y = 2\) \(X\) の周辺分布
\(X = 0\) \(1/8\) \(1/8\) \(0\) \(2/8\)
\(X = 1\) \(1/8\) \(2/8\) \(1/8\) \(4/8\)
\(X = 2\) \(0\) \(1/8\) \(1/8\) \(2/8\)
\(Y\) の周辺分布 \(2/8\) \(4/8\) \(2/8\) \(1\)

定義 9.1(同時確率関数と周辺確率関数)

  • \(p(x, y) = P(X = x,\ Y = y)\) を \((X, Y)\) の 同時確率関数 という。\(\sum_x\sum_y p(x, y) = 1\) を満たす。
  • \(p_X(x) = \sum_y p(x, y)\)、\(p_Y(y) = \sum_x p(x, y)\) を、それぞれ \(X\)、\(Y\) の 周辺確率関数 という。

「周辺」という名前は、表の 周辺(端) に合計を書くことに由来します。同時分布から一方の変数について足し合わせる(消去する)と、もう一方だけの分布が得られます。

同時分布と周辺分布
図9.1 同時分布(円の面積が確率)と、それを縦・横に足し合わせて得られる周辺分布。

連続型の同時分布

連続型では、2変数の関数 \(f(x, y)\) を 同時密度関数 として使います。1変数では「面積が確率」でしたが、2変数では 体積が確率 になります。

\[ P\big((X, Y) \in A\big) = \iint_A f(x, y)\,dx\,dy, \qquad \iint_{\mathbb{R}^2} f(x, y)\,dx\,dy = 1 \]

周辺密度関数は、離散型の和を積分に置き換えて \(f_X(x) = \int_{-\infty}^{\infty} f(x, y)\,dy\) です。

2変量の同時密度関数
図9.2 2変数の同時密度関数は「山」の形をした曲面で、ある領域の上の体積がその領域に入る確率になる。右は真上から見た等高線。

9.2 条件付き分布

「\(X = x\) とわかったとき、\(Y\) はどう分布するか」を表すのが条件付き分布です。第4章の条件付き確率をそのまま確率変数に当てはめます。

定義 9.2(条件付き分布)

\(p_X(x) > 0\) のとき、\(X = x\) を与えたときの \(Y\) の 条件付き確率関数 を

\[ p(y \mid x) = P(Y = y \mid X = x) = \frac{p(x, y)}{p_X(x)} \]

と定める。連続型では \(f(y \mid x) = \dfrac{f(x, y)}{f_X(x)}\) を 条件付き密度関数 という。

上の表で \(X = 1\) を与えると、\(Y\) の条件付き分布は「\(X = 1\) の行」を行の合計 \(4/8\) で割って

\[ P(Y = 0 \mid X = 1) = \frac{1}{4}, \quad P(Y = 1 \mid X = 1) = \frac{1}{2}, \quad P(Y = 2 \mid X = 1) = \frac{1}{4} \]

となります。表のある行(または列)だけを取り出し、合計が1になるように拡大したものが条件付き分布です。 連続型では、同時密度関数の山を \(X = x\) の位置で切った 切り口 の形が条件付き分布になります。

条件付き分布は同時分布の切り口
図9.3 楕円は同時密度関数の等高線。$X = x$ で切った切り口(色つきの曲線)が条件付き分布で、その中心(条件付き期待値)は $x$ とともに移動する。

9.3 確率変数の独立性

定義 9.3(確率変数の独立)

すべての \(x, y\) について

\[ p(x, y) = p_X(x)\,p_Y(y) \qquad (\text{連続型では } f(x, y) = f_X(x) f_Y(y)) \]

が成り立つとき、\(X\) と \(Y\) は 独立 であるという。\(n\) 個の確率変数 \(X_1, \dots, X_n\) についても、同時分布が周辺分布の積になるとき独立という。

独立なら \(p(y \mid x) = p(x, y)/p_X(x) = p_Y(y)\)、つまり \(X\) の値を知っても \(Y\) の分布は変わらない ことになります。

上の例では \(P(X = 0, Y = 2) = 0\) ですが \(P(X = 0)P(Y = 2) = \frac{2}{8}\cdot\frac{2}{8} \ne 0\) なので、\(X\) と \(Y\) は独立ではありません。

独立同分布(i.i.d.)

\(X_1, X_2, \dots, X_n\) が互いに独立で、すべて同じ分布に従うとき、独立同分布(independent and identically distributed, i.i.d.)であるといいます。

母集団から無作為に(くじ引きのように)\(n\) 個のデータを取り出すことは、「母集団分布に従う i.i.d. な確率変数 \(X_1, \dots, X_n\) の実現値を得ること」とモデル化されます。 これが第4部以降の推測統計の基本的な枠組みです。

9.4 共分散と相関係数

2変数の関数の期待値

\(g(X, Y)\) の期待値は、1変数のときと同様に \(E[g(X, Y)] = \sum_x\sum_y g(x, y)\,p(x, y)\)(連続型なら二重積分)で計算できます。 これを使うと、第6章で予告した期待値の線形性 \(E[X + Y] = E[X] + E[Y]\) が一般に示せます。

\[ E[X + Y] = \sum_x\sum_y (x + y)p(x, y) = \sum_x x\sum_y p(x, y) + \sum_y y\sum_x p(x, y) = \sum_x x\,p_X(x) + \sum_y y\,p_Y(y) \]

定理 9.1(独立な確率変数の積の期待値)

\(X\) と \(Y\) が独立ならば

\[ E[XY] = E[X]\,E[Y] \]

より一般に、独立ならば任意の関数 \(g, h\) について \(E[g(X)h(Y)] = E[g(X)]\,E[h(Y)]\)。

証明(離散型)

独立性より \(p(x, y) = p_X(x)p_Y(y)\) なので、二重和が積に分解できます。

\[ E[XY] = \sum_x\sum_y xy\,p_X(x)p_Y(y) = \left(\sum_x x\,p_X(x)\right)\left(\sum_y y\,p_Y(y)\right) = E[X]\,E[Y] \]

共分散と相関係数

第3章ではデータの共分散・相関係数を学びました。確率変数についても同じように定義します。

定義 9.4(共分散と相関係数)

\(\mu_X = E[X]\)、\(\mu_Y = E[Y]\) とするとき

\[ \mathrm{Cov}(X, Y) = E\big[(X - \mu_X)(Y - \mu_Y)\big] = E[XY] - E[X]\,E[Y] \]

を 共分散、

\[ \rho(X, Y) = \frac{\mathrm{Cov}(X, Y)}{\sqrt{V[X]}\sqrt{V[Y]}} \]

を 相関係数 という。

上の例では \(E[XY] = \frac{1}{8}(1\cdot 1\cdot 2 + 1\cdot 2\cdot 1 + 2\cdot 1\cdot 1 + 2\cdot 2\cdot 1) = \frac{10}{8}\)、\(E[X] = E[Y] = 1\) なので \(\mathrm{Cov}(X, Y) = \frac{10}{8} - 1 = \frac{1}{4}\)。\(V[X] = V[Y] = \frac{1}{2}\)(\(B(2, 1/2)\) の分散)なので、\(\rho = \frac{1/4}{1/2} = \frac{1}{2}\) です。 2回目のコインを共有しているぶん、正の相関があります。

定理 9.2(共分散と相関係数の性質)

  1. \(\mathrm{Cov}(X, X) = V[X]\)、\(\mathrm{Cov}(X, Y) = \mathrm{Cov}(Y, X)\)
  2. \(\mathrm{Cov}(aX + b,\ cY + d) = ac\,\mathrm{Cov}(X, Y)\)
  3. \(\mathrm{Cov}(X + Y,\ Z) = \mathrm{Cov}(X, Z) + \mathrm{Cov}(Y, Z)\)
  4. \(-1 \le \rho(X, Y) \le 1\)。\(|\rho| = 1\) となるのは、\(Y = a + bX\)(\(b \ne 0\))が確率1で成り立つときに限る。
  5. \(X\) と \(Y\) が独立ならば \(\mathrm{Cov}(X, Y) = 0\)(したがって \(\rho = 0\))。
証明(4と5)

4. 任意の実数 \(t\) について \(V[tX + Y] \ge 0\) です。展開すると(次の定理9.3を使う)

\[ V[tX + Y] = t^2 V[X] + 2t\,\mathrm{Cov}(X, Y) + V[Y] \ge 0 \]

これが \(t\) の2次式としてつねに0以上なので、判別式は0以下です。

\[ \mathrm{Cov}(X, Y)^2 - V[X]\,V[Y] \le 0 \quad\Longleftrightarrow\quad \rho^2 \le 1 \]

等号は、ある \(t\) で \(V[tX + Y] = 0\)、つまり \(tX + Y\) が確率1で定数になるときに成り立ちます。

5. 定理9.1より \(E[XY] = E[X]E[Y]\) なので \(\mathrm{Cov}(X, Y) = 0\)。

無相関でも独立とは限らない

定理9.2の5の逆は成り立ちません。たとえば \(X\) が \(-1, 0, 1\) を確率 \(1/3\) ずつとり、\(Y = X^2\) とすると、\(Y\) は \(X\) で完全に決まる(独立ではない)のに

\[ \mathrm{Cov}(X, Y) = E[X^3] - E[X]E[X^2] = 0 - 0 = 0 \]

です。共分散・相関係数は 直線的な 関係しか捉えません(第3章で見たU字型の散布図と同じ現象です)。

和の分散

定理 9.3(和の分散)

\[ V[X + Y] = V[X] + V[Y] + 2\,\mathrm{Cov}(X, Y) \]

特に \(X\) と \(Y\) が独立(または無相関)ならば

\[ V[X + Y] = V[X] + V[Y] \]

より一般に、定数 \(a_1, \dots, a_n\) について

\[ V\left[\sum_{i=1}^{n} a_i X_i\right] = \sum_{i=1}^{n} a_i^2 V[X_i] + 2\sum_{i<j} a_i a_j \mathrm{Cov}(X_i, X_j) \]
証明

\(X - \mu_X = \tilde{X}\)、\(Y - \mu_Y = \tilde{Y}\) とおくと、\((X + Y) - (\mu_X + \mu_Y) = \tilde{X} + \tilde{Y}\) なので

\[ V[X + Y] = E\big[(\tilde{X} + \tilde{Y})^2\big] = E[\tilde{X}^2] + 2E[\tilde{X}\tilde{Y}] + E[\tilde{Y}^2] = V[X] + 2\mathrm{Cov}(X, Y) + V[Y] \]

一般の場合も、\((\sum a_i \tilde{X}_i)^2\) を展開して期待値をとれば同様です。

注意:独立なら分散は足し算になりますが、標準偏差は足し算にならない ことに注意しましょう(\(\sigma_{X+Y} = \sqrt{\sigma_X^2 + \sigma_Y^2}\)。ピタゴラスの定理と同じ形です)。 また \(V[X - Y] = V[X] + V[Y] - 2\mathrm{Cov}(X, Y)\) で、独立なら 差の分散も和になります。

例(二項分布の分散):\(X \sim B(n, p)\) は独立な \(n\) 個のベルヌーイ変数の和なので、\(V[X] = n \cdot p(1 - p)\)。第7章の面倒な計算が一瞬で済みます。

標本平均の期待値と分散 ― 推測統計の出発点

定理9.3から、統計学で最も重要な結果の1つが導かれます。

定理 9.4(標本平均の期待値と分散)

\(X_1, \dots, X_n\) が i.i.d. で \(E[X_i] = \mu\)、\(V[X_i] = \sigma^2\) のとき、標本平均 \(\bar{X} = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n X_i\) について

\[ E[\bar{X}] = \mu, \qquad V[\bar{X}] = \frac{\sigma^2}{n}, \qquad \text{標準偏差} = \frac{\sigma}{\sqrt{n}} \]
証明

線形性より \(E[\bar{X}] = \frac{1}{n}\sum E[X_i] = \frac{1}{n}\cdot n\mu = \mu\)。 独立性と定理9.3(\(a_i = 1/n\)、共分散はすべて0)より

\[ V[\bar{X}] = \sum_{i=1}^{n}\frac{1}{n^2}V[X_i] = \frac{1}{n^2}\cdot n\sigma^2 = \frac{\sigma^2}{n} \]

データを \(n\) 個集めて平均をとると、平均値のぶれ(標準偏差)は \(1/\sqrt{n}\) に小さくなります。 4倍のデータで精度は2倍、100倍のデータで精度は10倍——この \(\sqrt{n}\) の法則 は、第11章の大数の法則、第12章の中心極限定理、そして推定・検定のすべての出発点になります。

応用:分散投資

値動き(収益率)の標準偏差がどれも \(\sigma\) で、どの2つの相関係数も \(\rho\) である \(n\) 個の銘柄に、資金を等分して投資するとします。 ポートフォリオの収益率は \(\bar{X}\) なので、定理9.3より

\[ V[\bar{X}] = \frac{1}{n^2}\left(n\sigma^2 + n(n-1)\rho\sigma^2\right) = \sigma^2\left(\rho + \frac{1 - \rho}{n}\right) \]

分散投資の効果
図9.4 銘柄数を増やすとリスク(標準偏差)は下がるが、銘柄間に相関があると $\sqrt{\rho}\,\sigma$ より下には下がらない(点線)。

銘柄が独立(\(\rho = 0\))ならリスクはいくらでも小さくできますが、相関があると、市場全体の動きのような「分散しきれないリスク」が残ります。

9.5 条件付き期待値

条件付き分布の期待値を 条件付き期待値 といいます。

\[ E[Y \mid X = x] = \sum_y y\,p(y \mid x) \qquad \left(\text{連続型なら} \int y\,f(y \mid x)\,dy\right) \]

これは \(x\) の関数です。\(x\) に確率変数 \(X\) を代入した \(E[Y \mid X]\) は、\(X\) によって値が決まる確率変数 になります。

図9.3の点(切り口の中心)を結んだ線が \(E[Y \mid X = x]\) でした(この例では直線ですが、一般には曲線になります)。これは「\(X\) を知ったときの \(Y\) の最良の予測」を表していて、 実際、\(E[(Y - g(X))^2]\) を最小にする関数 \(g\) は \(g(X) = E[Y \mid X]\) であることが示せます(第2章で「平均値は二乗誤差を最小にする」と学んだことの一般化です)。これが第18章の回帰分析の理論的な背景です。

定理 9.5(繰り返し期待値の法則と全分散の公式)

\[ E\big[E[Y \mid X]\big] = E[Y] \]
\[ V[Y] = E\big[V[Y \mid X]\big] + V\big[E[Y \mid X]\big] \]
証明

繰り返し期待値の法則(離散型):

\[ E\big[E[Y \mid X]\big] = \sum_x E[Y \mid X = x]\,p_X(x) = \sum_x\sum_y y\,\frac{p(x, y)}{p_X(x)}\,p_X(x) = \sum_x\sum_y y\,p(x, y) = E[Y] \]

全分散の公式:\(V[Y \mid X] = E[Y^2 \mid X] - (E[Y \mid X])^2\) の期待値をとり、繰り返し期待値の法則を使うと

\[ E\big[V[Y \mid X]\big] = E[Y^2] - E\big[(E[Y \mid X])^2\big] \]

一方 \(V\big[E[Y \mid X]\big] = E\big[(E[Y \mid X])^2\big] - \big(E[E[Y \mid X]]\big)^2 = E\big[(E[Y \mid X])^2\big] - (E[Y])^2\)。 2式を足すと \(E[Y^2] - (E[Y])^2 = V[Y]\) になります。

繰り返し期待値の法則は「場合分けして平均し、その平均をさらに平均する」ことを表しています(全確率の公式の期待値版です)。 全分散の公式は「全体のばらつき = グループ内のばらつきの平均 + グループ間のばらつき」という分解で、第19章の分散分析の考え方そのものです。

例:ある鶏が1か月に産む卵の数 \(N\) は \(Po(\lambda)\) に従い、各卵は独立に確率 \(p\) でかえるとします。かえるひなの数 \(Y\) について、\(N\) を与えると \(Y \sim B(N, p)\) なので

\[ E[Y] = E\big[E[Y \mid N]\big] = E[Np] = \lambda p \]
\[ V[Y] = E\big[Np(1 - p)\big] + V[Np] = \lambda p(1 - p) + p^2\lambda = \lambda p \]

期待値と分散が等しいのはポアソン分布の特徴でした。実際、\(Y \sim Po(\lambda p)\) であることが示せます。

9.6 2変量正規分布

2つの変数の同時分布として最も重要なのが 2変量正規分布 です。

定義 9.5(2変量正規分布)

5つのパラメータ \(\mu_X, \mu_Y\)(平均)、\(\sigma_X, \sigma_Y\)(標準偏差)、\(\rho\)(相関係数、\(|\rho| < 1\))をもつ 2変量正規分布 の同時密度関数は

\[ f(x, y) = \frac{1}{2\pi\sigma_X\sigma_Y\sqrt{1 - \rho^2}}\exp\left[-\frac{1}{2(1 - \rho^2)}\left\{\frac{(x - \mu_X)^2}{\sigma_X^2} - \frac{2\rho(x - \mu_X)(y - \mu_Y)}{\sigma_X\sigma_Y} + \frac{(y - \mu_Y)^2}{\sigma_Y^2}\right\}\right] \]
相関係数の異なる2変量正規分布
図9.5 2変量正規分布の等高線は楕円で、$\rho$ の符号で傾きの向きが、$|\rho|$ の大きさで細長さが決まる。点はこの分布から発生させた300組のデータ。

式は複雑ですが、次の性質が重要です。

定理 9.6(2変量正規分布の性質)

\((X, Y)\) が2変量正規分布に従うとき

  1. 周辺分布は正規分布:\(X \sim N(\mu_X, \sigma_X^2)\)、\(Y \sim N(\mu_Y, \sigma_Y^2)\)
  2. 条件付き分布も正規分布:

    \[ Y \mid X = x \ \sim\ N\left(\mu_Y + \rho\frac{\sigma_Y}{\sigma_X}(x - \mu_X),\ \ \sigma_Y^2(1 - \rho^2)\right) \]
  3. 無相関なら独立:\(\rho = 0\) ならば \(X\) と \(Y\) は独立

  4. \(aX + bY\) は正規分布に従う

2 は特に重要です。条件付き期待値 \(E[Y \mid X = x]\) は \(x\) の 1次関数(直線) になり、その傾き \(\rho\sigma_Y/\sigma_X\) は第3章で見た回帰直線の傾き \(r\,s_y/s_x\) とまったく同じ形です。 また条件付き分散 \(\sigma_Y^2(1 - \rho^2)\) は \(x\) によらず一定で、\(X\) を知ることで \(Y\) の分散が \((1 - \rho^2)\) 倍に減ることを表しています。

3 は一般には成り立たない「無相関 ⇒ 独立」が、正規分布では成り立つという特別な性質です。\(\rho = 0\) を密度関数に代入すると、指数部分が \(x\) の項と \(y\) の項に分かれ、\(f(x, y) = f_X(x)f_Y(y)\) となることから確かめられます。

多変量正規分布

\(k\) 個の変数の場合は、平均ベクトル \(\boldsymbol{\mu}\) と 分散共分散行列 \(\Sigma\)(\((i, j)\) 成分が \(\mathrm{Cov}(X_i, X_j)\))を使って

\[ f(\boldsymbol{x}) = \frac{1}{(2\pi)^{k/2}|\Sigma|^{1/2}}\exp\left\{-\frac{1}{2}(\boldsymbol{x} - \boldsymbol{\mu})^\top\Sigma^{-1}(\boldsymbol{x} - \boldsymbol{\mu})\right\} \]

と書けます。1変数の \(\frac{(x - \mu)^2}{\sigma^2}\) が、行列を使った2次形式に置き換わった形です。重回帰分析(第18章)や多変量解析の基礎になります。

まとめ

  • 同時分布を一方の変数について足す(積分する)と 周辺分布、ある値で切り取って正規化すると 条件付き分布。
  • 独立 ⟺ 同時分布 = 周辺分布の積。独立なら \(E[XY] = E[X]E[Y]\)、共分散は0(逆は成り立たない)。
  • \(V[X + Y] = V[X] + V[Y] + 2\mathrm{Cov}(X, Y)\)。独立なら分散は足し算。
  • i.i.d. な標本の平均は \(E[\bar{X}] = \mu\)、\(V[\bar{X}] = \sigma^2/n\)。精度は \(\sqrt{n}\) に比例して上がる。
  • \(E[E[Y \mid X]] = E[Y]\)、\(V[Y] = E[V[Y \mid X]] + V[E[Y \mid X]]\)。
  • 2変量正規分布では、周辺分布も条件付き分布も正規分布で、条件付き期待値は直線、無相関なら独立。

練習問題

問題 9.1(周辺分布と独立性)

\((X, Y)\) の同時確率関数が次の表で与えられています。

\(Y = 0\) \(Y = 1\)
\(X = 0\) 0.12 0.28
\(X = 1\) 0.18 0.42

(1) \(X\) と \(Y\) の周辺分布を求めてください。 (2) \(X\) と \(Y\) は独立ですか。

解答

(1) \(P(X = 0) = 0.40\)、\(P(X = 1) = 0.60\)、\(P(Y = 0) = 0.30\)、\(P(Y = 1) = 0.70\)。

(2) \(0.40 \times 0.30 = 0.12\)、\(0.40 \times 0.70 = 0.28\)、\(0.60 \times 0.30 = 0.18\)、\(0.60 \times 0.70 = 0.42\) で、 すべてのセルで同時確率 = 周辺確率の積なので 独立 です。

問題 9.2(和と差の分散)

\(V[X] = 4\)、\(V[Y] = 9\)、\(\mathrm{Cov}(X, Y) = -2\) のとき、\(V[X + Y]\)、\(V[X - Y]\)、\(V[2X - 3Y + 5]\) を求めてください。

解答
  • \(V[X + Y] = 4 + 9 + 2(-2) = 9\)
  • \(V[X - Y] = 4 + 9 - 2(-2) = 17\)
  • \(V[2X - 3Y + 5] = 4 \cdot 4 + 9 \cdot 9 + 2 \cdot 2 \cdot (-3) \cdot (-2) = 16 + 81 + 24 = 121\)

問題 9.3(標本平均)

ある母集団の標準偏差は 12 です。標本平均の標準偏差を 2 以下にするには、何個以上のデータが必要ですか。

解答

\(12/\sqrt{n} \le 2\) より \(\sqrt{n} \ge 6\)、\(n \ge 36\)。36個以上必要です。

問題 9.4(2変量正規分布の条件付き分布)

父親の身長 \(X\) と息子の身長 \(Y\) が、\(\mu_X = \mu_Y = 170\)、\(\sigma_X = \sigma_Y = 6\)、\(\rho = 0.5\) の2変量正規分布に従うとします。 父親の身長が 182 cm のとき、息子の身長の条件付き分布を求めてください。

解答
\[ E[Y \mid X = 182] = 170 + 0.5 \cdot \frac{6}{6}(182 - 170) = 176, \qquad V[Y \mid X = 182] = 36(1 - 0.25) = 27 \]

つまり \(N(176, 27)\)(標準偏差約 5.2 cm)です。父親は平均より 12 cm 高いのに、息子の予測値は平均より 6 cm 高いだけです。 これが第3章で触れた「平均への回帰」で、ゴルトンが19世紀に親子の身長のデータで発見した現象です。

問題 9.5(繰り返し期待値の法則)

サイコロを1回振って出た目 \(N\) の回数だけコインを投げ、表の回数を \(Y\) とします。\(E[Y]\) と \(V[Y]\) を求めてください。

解答

\(N\) を与えると \(Y \sim B(N, 1/2)\) なので \(E[Y \mid N] = N/2\)、\(V[Y \mid N] = N/4\)。\(E[N] = 7/2\)、\(V[N] = 35/12\) より

\[ E[Y] = E[N/2] = \frac{7}{4}, \qquad V[Y] = E[N/4] + V[N/2] = \frac{7}{8} + \frac{35}{48} = \frac{42 + 35}{48} = \frac{77}{48} \approx 1.60 \]